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書店は折り返し、いつか人生も折り返す

高校生の頃、クラスにNさんというとてもよく出来る女の子がいた。

学校でよく出来るといえば勉強に決まっているが、Nさんは文理問わず全ての教科でトップか2番という噂があり、体育の授業でこそ「普通の生徒」だったが、他のことでは、抜きん出た秀才として皆に一目おかれていた。 一方で彼女は、人としても非常によく出来た人であった。

とくに社交的ではないが、控えめながらはっきりとした物言いと 分け隔てのない付き合いで、クラスの皆が気軽に口の聞ける人だった。

小柄で痩せ形で少し色黒、眼鏡にショートヘアがトレードマークのNさんは、声が高く、動くとちょこまかと小忙しく、しっかり者なのにどこか不器用な、あどけない雰囲気があり、優等生の堅苦しさを感じさせなかった。成績を貼りだす慣習のない学校だったが、彼女の何につけても勤勉な態度と、時おり先生たちが口にする賛辞を聞けば、例の噂を裏付けるには充分だった。 その頃、図書係を務めたり手伝ったりしていた僕は、たまたま彼女の貸出カードを目にし、その読書量に驚いた。そして、彼女の残す成績も、同じようにこつこつと積み重ねた量によるものだろうと思ったりした。 あるとき、クラスの日誌か作文演習かなにかで、Nさんが「生徒が学校に携帯電話を持って来るのを禁止すること、及び、その明確な理由を説明しないのは、不当かつ教師の怠慢である。同じことは、染髪やほかの制服の規定についても言える。規則について疑問を持つこと自体を否定するような教師の指導は、教育の上でも、生徒との信頼関係を損なうものである」というようなことを書いていた。生活態度も真面目な彼女がこんなことを考えていたのかと驚くと共に、のらりくらりと、毎日惰性で校則を守って、とくに不満もかった自分が恥ずかしいような気がした。 そこには、緊急のときなどに家族と連絡を取るためにも、携帯電話があればとても助かるという様なことも書いてあった。Nさんは母親が働きに出ているらしく、お父さんの話を聞いたことはなかったが、僕は勝手に、母子家庭で、学校帰りに買い物をして帰り、夕食の支度をして母親の帰りを待つ彼女を想像したりしていた。 Nさんは、どこだったか、勉強の出来る生徒が目指す公立大学に進学したと思うが、よく覚えていない。

大学の名前やそもそも教育機関そのものに余り関心のなかった僕は、一度聞いたその名前も忘れてしまった。彼女の貸出カードに書かれていた本のタイトルも、一つも覚えていない。

学校時代と、その雰囲気

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